仕事で、オフィスで使われる言葉には企業文化的なものから、個人の指向やクセに影響されるものまで様々です。でも、企業文化に従っては外部のお客さまとのやりとりに支障をきたしますし、ましてや個人の「勝手用語」を当たり前のように使っていてはコミュニケーションが崩壊します(オーバーかな)。

同じ言葉を使っていても、定義が違うなんてことも多々あります(例えば、「今日中」など)。

仕事ができる人は、良い「通訳」であることが多い

10年ほど前にネット上で話題になったのが、某有名メーカーの社内で使われる企業用語。偶然、私の兄の会社がその企業の傘下になったとき、「何を言っているのかは解らなくもないが、一般的ではなく違和感を覚える」と言っていたのが印象的でした。企業内でしか伝わらない言葉に慣れてしまうと、転職したときに困りそうですね。

一般的なWebディレクションやプロジェクトマネージメント経験者であれば、「誰にでも解る言葉を使う」は基本だと考えている方も多いと思います。

ディレクターやマネージャー、ミーティングの進行係などはその場にいる全員をまとめる役割を担っているので、通訳でなければならないと私個人は考えています。特に開発・クリエイティブ・マーケティング・営業が一堂に顔を合わせる場では、誰かの頭に「?」が見えたらすかさず、「今のは〇〇ということですね」と説明を追加できる人は「この人、できる!」と信頼感が一気にアップしたり。

人の話を聞きつつ、同時に思考し、かつ他者を思いやることのできる人です。

本来は、「話し手が気を付けるべきこと」「解らない言葉があればメモって自分で調べること」なのかもしれませんし、そうあるべきだとは思うのですが、現実的にはできない人が多いというのが実感です。それを放置すると会議の場ではそこで思考が止まりかねませんし、自分のプロジェクトコントロールが上手くいきません。

思い込み用語や勝手ワードは、コミュニケーションの的+評価を下げかねない

また、最近ではビジネスチャットなどが広く使われているため、勢いよくスレッドが流れていてあとでまとめて読もうとすると、相手の使う言葉によってはまったく意味が解らず困る、なんてこともあります。

先日、ビジネスチャット上で新しく開発しているネイティブアプリのUIについて議論していたとき「では、フッターは不要と思いますので削除します」「了解しました」と言うやりとりがありました。

フッター…デザインにフッターなんてあったっけ?と、ワイヤーフレームとにらめっこして、気づきました。「ああ!下部にくっついているナビゲーションのことか!」と。でも、お客さまや下請けをお願いしている企業の方に解りやすい表現では無いと判断し、Androidでは「Bottom Navigation」、iOSでは「Tab Bar」と呼んでいるとURLを添付し説明して、「Androidの言い方のほうが解りやすいので『下部ナビゲーション』と呼びませんか?」と提案をしました。

なるべく、広く一般的な(日本語の固有名詞があるのであればそれに準じて)用語を使うことで、コミュニケーションも円滑になります。

加えて、プロでないお客さまに対してなるべく正しい用語で理解していただくこと(きちんと説明できる用語を使うこと)で信頼感もアップします。

私的NGワード1「なる早」

私がディレクションをする上で許さない(自分も使わないし、人にも使わせない)言葉の一つが「なる早」(なるはや)です。

「え?どうして?普通に使うでしょ、一般的でしょ?」と思われると思いますが、この言葉には多くの危険と「個人的な判断」が含まれているため、プロジェクトの遂行には使うべきではないのです。

理由は二つあります。

一つは、「なる早」は期限を有耶無耶にしているから。

「可能な限り早く対応します」「可能な限り早くやってね」は、とにかく早く!という意識があると思いますが、結局は期限をコミットしていないので、ゆるゆるだらだらとなる事が多いです。

「1時間後にはできるかな」と想定していたのに、4時間後だったり…その間イライラと待っていても、「なる早」を許してしまった限り仕方がないのです。

ディレクションの基本ではありますが、期限・日時はきちんとピンポイントで指定・確認・遵守すべきです。

二つ目の理由は、「なる早」は個人の主観や意識に大きく左右されるからです。

最悪なのは、「できなければ、やらない」「できないなら仕方がない」をOKしたことになってしまうことも。「その人の範疇で努力して、でもできなければ、2日後でも文句は言えない」のです。

もちろん会社内やそのチーム内で「なる早」の定義を決めていれば問題はないかもしれませんが、そういったところはあまりないのではないでしょうか?

私的NGワード2「ジャストアイデア」

「ジャストアイデアなんだけどさ~。」

耳慣れた言葉です。「よく考えてはいなくて、思い付きなんだけどさ」と但し書きを入れて、自分の考えを述べているわけです。

キャリアの浅い若手であれば(言葉遣いはともかく)まだ仕方がない、とにかくアイデアがあるなら言ってみて、というところですが、この言葉の質の悪さは階級が上になるほど発揮されます。

偉い人が「ジャストアイデア」を口にした途端、流行りの「忖度」(そんたく)という言葉と相まってそれぞれの頭に色々な思いが浮かぶからです。「無茶なこと言うな」「それ普通にやったら無理だよ」と思いつつも、自分の上にいる人のために何かアクションを取る必要が出てくるのです。

で、右往左往した結果、「そんなこと言ってない」「よく考えたのか」と振り出しに戻ったりもします。

仕事として発言する限り、考えもしないでただ頭に浮かんだことを垂れ流しにすべきではありません。100%正しい発言なんてできないのが普通ですが、1秒でも2秒でもいいから思考を巡らして、事の前後を想像して発言するべきだなと。

癖になってしまっているのか、「発言多いから高評価だろう」「私ってアイデアマン!」などと言う風情でどんどんジャストアイデアを連発する人もいますが、危険人物のリスト入りです。

もちろん、「アイデア出し」のための話し合いの場であれば問題はありません。

誰でも理解しやすい言葉を使い、円滑にプロジェクトを進めよう

「言葉を正しく使う」というのはとても知識を必要とする行為ですが、それに気づかず「勝手用語」や無責任な言葉を使う人は少なくありません。

なぜ今日、備忘録にこの記事を書いたかというと、「なる早」を許したために外部メディアに提出する原稿が間に合わず、イライラとしたやりとりがビジネスチャットで流れてきたからです。「なる早っていつなんだ」「期限をきちんと指定したのか」と、ウォッチしていた営業トップからのコメントを見てもう一度チーム内で確認したほうがいいな、と。

時間に猶予を与えすぎるとぎりぎりまで作業しない人がいるんですよね…って、これはこの主題から外れてますが。

無意識に使っている人がほとんどなので、ライティングに携わらない人でも、まずは「言葉」に興味を持つところから始める必要があります。そして謙虚に「自分の言葉が正しいのか」「現状に適している言葉を使用しているか」と振り返り、そうでないことに気づくことが肝要です。