Harvard Business Review(ハーバードビジネスレビュー)の『女性部下との接し方に悩む男性に贈る5つの提案』という記事を読んで、先日同僚の愚痴を聞いたことを思い出しました。
Contents
女性部下との接し方に関わる自社の状況
私が所属する会社は創立25周年を迎える中堅規模のIT企業です。
男女比率は7対3、20代・30代・40代の比率がほぼ一緒で新入社員も年に10名以上採用していますが、社員の半数がエンジニアでありその中の24%が女性です。エンジニアでは課長以上の女性管理職はいません。
私個人は専門職であるため「課長」などのマネージメント層とは別の位置にいるのですが、それでも同じ業務を担当している若い層の業務指導のほか、目標作成などの基本的な指導はしています。と言っても、私が接するのはほとんど男性社員であるため記事の例にはあたりません(「上が女でやりにくいなぁ…と思われているかどうかは不明です)。
先日、エンジニアの女性社員Aさん(40代・担当者クラス)が上司の男性社員に、女性社員Bさん(30代・エンジニア・担当者クラス)にひと言言ってもらえないかと相談を受けたという話を聞きました。
体調不良には突っ込めない?女性問題を女性に丸投げ
細かく話を聞いてみるとBさんの行動は傍目には問題があり、原因を確認してそれなりの対応や指導が必要な状況です。何度かその上司は問題行動に関して軽く注意しているのですが「体調が悪いから」とそれ以上突っ込めない状況に追い込まれるそうです。
「体調が悪いから」が続くのであれば、メンタル的に何かダメージを受ける環境ではないかと確認しつつ、薬などを処方されている様子はないというので病院に行くことを促すことも必要だと思うのですが、その上司は担当者であるAさんに「女性同士だから話しやすいでしょう?」と「なんとかする」ことを丸投げしてしまいました。
まさに、
男性上司が女性部下と必要以上に距離を置くようになり、メンタリングを放棄しつつあるのだ。
です。
業務放棄と言われても仕方がない。それ以外の弊害
丸投げされたAさんの立場では「マネージメントの仕事で給料をもらっているのに人にやらせるな。」「女性同士だって突っ込みやすいことはある。しかも自分は担当者クラスなのに。」と当然の反発です。
女性のほうが女性の体調に対して知見もあり、セクハラに見られないし、同じ担当者クラスなのでパワハラにも当たらないと思ったかもしれませんが、権限もないのに暖簾に腕押し状態の同僚に意見をするのは生産性がある業務とは言えません。「軽く言われた」らしいので解決したからと昇給などに絡む評価は受けられませんし、むしろ、仕事がしにくくなるなどのデメリットしかAさんにはないのです。
マネージメントの資質を問われる上司の下にいてはAさんのモチベーションも下がりますし、何よりもマネージメント層が女性社員に対してきちんと対応しない現状では女性管理職を増やすことも難しく、組織全体の課題になるのは目に見えています。
その問題について、記事では
解決策は、いたってシンプルだ。女性リーダーを増やしたいのなら、必要なのは、高い地位にいる男性が女性の昇進をサポートすることである。
と続けています。「女性部下の接し方」ではなく、女性リーダーを増やす話題にいつの間にか移っていたのは「結局は、女性部下を指導するのは女性上司が適している」というちょっとマトの外れた答えなのか?と思ってしまったのですが『女性部下との接し方に悩む男性に贈る5つの提案』を1つずつ見ていきたいと思います。
提案1:意図的に女性のメンティを求めよう
メンティというのは「対象者」「メンターに対して、受ける人」という意味ですが、簡単に言うと内面的関係の課題を解決するには、「意識してメンタルに関する指導すべき女性社員を増やそう」ということでしょうか。
男性上司がより高い位置に上がるために、むしろ女性の社員を積極的に指導しましょう、類似性のある男性従業員は指導しやすくて当然なので、より異種である相手との関係を良好にする努力をしてこそ、自身がステップアップするために必要であると。
「君子危うきに近づかず」ではなく、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」といったところでしょうか。これは男性上司と女性社員の問題だけでなく、国籍が違う、年齢が上の部下などでも同様のことが言えると思いますが、まずは慣れろ、場数を踏めということかもしれません。
提案2:メンタリングの方法の透明性を高めよう
メンタル的な指導をするときは、閉鎖された空間で二人きりで行うのではなく、周囲もきちんと認識してもらうため透明性と公平性を考慮して…という内容に思えたのですが、話はそんなにシンプルなのでしょうか?
二人きりにならないで…というのはメンター側のリスク回避にはなりますが、周囲に知らせるような環境で指導できるかはその相手と相手の言い分にもよります。人前で叱られたり、秘密にしたいことを晒されるのは誰でも避けたいことですし、そうならないようにするにはメンター側の熟練さが必要になります。
結局は、
地位の高い年長の男性が旗振り役となり、男性メンターと女性プロテジェの関係が発展し、成功することが規範であると誰もが認識できるような、プロフェッショナルな環境づくりが必須
と締めていますので、メンターが一人で解決するのではなく、メンターのさらに上司(年齢も上の熟練した社員)などと連携して行う、というのが主旨なのかもしれません。
提案3:適切な質問ができるよう、共感を持って話に耳を傾けよう
これは女性部下の扱い方というよりは、部下全体に対する態度の話です。ただ、異性だと「共感を持って」というのは特に難しいのは事実です。
説得したり、売ったり、手に取ってもらうマーケティング的なことにおいても現在では「共感が重要」と言われています。自分のレイヤーとは遠い場所にいる相手(ユーザー/カスタマー/部下)の状況を知り、考え方を理解し、自身も共感しつつ対応するというのは何よりも有効で難しいことかもしれません。
自分自身を「第三者」として置き換えたり、思い込みや偏見を排除して初めてできることでもあります。
提案4:ジェンダー問題があるという事実を認めよう
女性管理職が少ないのは、今までの日本の社会背景、その会社個々の歴史や成り立ちすべてが影響していると考えられています。
よく女性からは「偉くはなりたくない」という言葉を耳にします。いくら収入と権利が増えても、代わりに受け取る義務・責任は女性が働きやすい環境とは言い切れない現代日本企業においてはリスクでしかない、と多くの日本女性が考えていることでしょう。
子育てや家事だけでなく、男性より劣る体力も、年齢を重ねると生じる体調の変化も大きな不安材料です。
そういった女性を管理職まで押し上げるには、働き方改革でよく掲げられている「働きやすい環境」のほか、男性社員の考え方改革が必要かもしれません。「それぞれ得意分野があるのだから、なんでも同じことができる必要はない」が私の持論ではありますし、こういった考え方は若い男性には見られることなので、多少は時間が解決する(その頃は私は定年を迎えていそうですが)ことかもしれません。
提案5:スポンサーとして、女性プロテジェを他のスポンサーと積極的に引き合わせよう
これも女性に対してというよりは、若手社員育成における鉄則にちかいものがあると感じました。自分が面倒を見ている対象者の認知度を組織内で上げようということです。
先日、私と一緒に働く男性社員(30代前半)が「社長に『何をやっているか見えない。ちゃんと仕事しているのか』と言われた」と悔しそうな表情をして語っていました。
社長曰く私たちの上司(部門長)からは部門の成果・タスクに対してのアピールが無いからわからないということなので、それは私たちの問題というより会社の体系やマネージメント層の問題ではないかしら?と疑問がわいたのですが、いずれにしても上司が上手く部下を引き立てる部門(弊社の場合は営業。営業には女性課長がいる)のほうがクラスが上がりやすい傾向にはあるかもしれません。
目立つ案件を任されれば社内の注目度もあがりますし、いくら縁の下の力もち的に細々動いていても、表に立っている人がすべて自分の手柄にしていては末端の人間が評価されるわけがありません。
社長とその男性社員は長く一緒に働いているのでそれなりに話がしやすい関係なのでそういった話になったのだと思いますが、女性・男性関わらず評価軸をガチガチに固定していたら、多様性のある現在の人材を正しく評価することはできないと感じています。
ハーバードビジネスレビューの記事に対して思うこと
『女性部下との接し方に悩む男性に贈る5つの提案』なのですから、一般的なことではなく、対男性上司と女性部下に特化される提案をして欲しかったなというのが正直なところです。「男性部下でも共通」では、恐らく世の中の男性上司の悩みは解決できないのではと思います。
女性の立場で思うのは、何よりも、記事の最後にあった
残念ながら、女性にメンタリングを行う地位の高い女性は、他と比較して低い評価を受け、えこひいきしていると見られる可能性がある。
のような偏見を失くすよう、現在の経営陣、その後ろに控える部門長/事業部長クラスの管理職(弊社の場合は全員男性なので)の意識改革が進まないとどうにもならないと思った次第です。